明日を変えよう!ハンマー
ビートルズのパロディーというと真っ先に浮かぶのは、モンティ・パイソンのエリック・アイドルがやっていたザ・ラトルズですけれども、その2年後にアメリカで発表されたユートピアの「ミート・ザ・ユートピア」を忘れるわけにはいきません。
トッド・ラングレンは、これに先立つ1976年のソロ作「誓いの明日」で、ビートルズの「レイン」と「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」を完コピしています。何かとこういう企画ものが大好きな人で、さすがに器用な人は違います。
思い立ってやってみる人は多いかもしれませんが、それを作品として発表してしまうというのは、音楽業界の顔役ならではです。それほどレコードが売れるわけでもないのに、こういう企画が通る。業界人としての地位の問題でしょう。
この作品はベースのカシム・サルトンによれば、これは「好きなビートルズの曲、感じ、テンポ、メロディーを取り上げて、その音楽的な内容を吟味して、そこに自分たちなりの捻りを加えた」作品です。そう、コピーというよりもトリビュートです。
最初にパロディーと書いてしまいましたが、ラトルズとは異なり、どの曲もビートルズの曲に依拠しているわけではありません。サルトンも認める通り、元歌が確かにあるのですけれども、どの曲も歌詞も純粋にオリジナルですから、超高度なパロディーとなります。
曲名だけからは元歌はほとんど分かりません。しかし、日本盤では元歌を示す邦題が各楽曲に付けられています。そもそもアルバム自体の邦題もビートルズ仕様にされています。この試みは賛否両論があります。楽しみを奪ったと憤る人もいます。
しかし、ユートピアの方が一枚上手です。たとえば11曲目の「マックスウェルズ・シルバー・ハンマー・イズ・オールウェイズ・レイト」は、ウィキペディアさんの方は「レディー・マドンナ」や「イエロー・サブマリン」が元歌だと言い切っています。
要するにどの曲もストレートに一つの楽曲だけに寄りかかっているわけではなく、ビートルズのさまざまな要素を混ぜ合わせて曲を仕立てています。そんなわけで、わいわいがやがやあれやこれやと議論しながら聴くのが正しい作法です。
歌詞もメロディーも拝借しているわけではないのに、見事に原曲の雰囲気を捉えているところが凄いです。逆に原曲、たとえばビートルズの「ミッシェル」は何をもってミッシェルらしさを表現できるのかということを考えてしまいます。この場合はもちろんベースなんですが。
この中で「抱きしめたいぜ」は映画の挿入歌として作られました。しかし、パクリ訴訟を恐れたプロデューサーに拒否されています。その代わりに作られたのでしょう、それっぽいMVが秀逸です。確かにこの曲はアルバム中最もパロディー的な要素が強いです。
ユートピアの作品の中では異色の作品です。とはいえ、今にして思えばビートルズはプログレッシブな要素が強いポップなロックですから、ユートピアがこれまで目指してきた道の先にビートルズが位置するのかもしれません。ベクトルはぴったり。強度は倍増されました。
Deface The Music / Utopia (1980 Bearsville)